イレウスと腸閉塞
呼称はとても大事
細かすぎるのも問題ですが,伝わらないのはもっと問題です.
例えば,「抗菌薬」と「抗生剤」では意味が通じると思います.
でも「イレウス」と「腸閉塞」では全く異なる事象を示しているのでプレゼンの際は注意が必要になります.
故障に関しては,ウィトゲンシュタインの言語ゲームなどが有名です.
単語は単語単体では基本的に意味を持たず,文脈依存性です.
文脈依存性とはいえ「診断」においては,単語だけである程度意味が通じることが特徴になります.
例えば,肺炎と重症肺炎と市中肺炎と院内肺炎と人工呼吸器関連肺炎では,それぞれなんとなく通じるはずです.
ここでは,「肺炎」+α のプレゼンができるということがとても大切ということになります.
血痰と喀血
これも結構全く異なる意味合いになります.
緊急性があるのは当然,喀血です.
特に電話で呼吸器内科医へプレゼンする場合などは,喀血というキーワードを使ってしまうと,気管支鏡や気管支動脈塞栓(BAE)などを考慮する病態になります.
血痰の場合は,痰に血が混ざっただけですので,それほど慌てることは通常ありません.
肺胞出血もまた異なる概念で,凝固異常など(Bland),毛細血管炎(Capillaritis),びまん性肺傷害(DAD)があります.
肺胞出血の場合は,CTで疑い,気管支肺胞洗浄でだんだん赤色が濃くなるのが特徴的です.
肺胞出血の場合は,50mlのシリンジ3本を使いますが,回収した検体は必ず写真に収めておいたほうが良いでしょう.
下血と血便
これも似たような表現ですが,全く異なります.
下血の場合は緊急内視鏡が必要になることが多いです.
血便の場合は,割と緊急性が生じないことが多いとされています(もちろん時にショックになることもあります).
これも,便や直腸診での写真を収めておくと話が早くなります.
要は術者がどのように判断するのかということですが,我々の情報だけを鵜呑みにするのではなく,過去の経験などから術者が決めることが多いからです.
そのため,現代では写真を取ることは容易に可能ですので,写真は積極的に活用すべきです.
最近は写真にとどまらず動画もとても有用で,痙攣の際に動画を撮影することなど共通言語として利用できます.
小児科受診に慣れている親の場合も,最近は動画や写真撮影をしてから受診することで,診断や治療がとてもスムーズになります.
同じ医療者ですが,やはり専門家は自分自身の目で確認したほうが,懐疑的に行うよりもスムーズなのだと思います.
イレウスと腸閉塞
だいぶ古いものとなってしまいましたが,いまだにイレウスと腸閉塞を混同している方がいらっしゃいます.
たしかに,つい「イレウス」って言ってしまう傾向にあります..
イレウスは腸管の閉塞のないもの,つまり「麻痺性イレウス」のような状態を指します.
一方,腸閉塞はObstrction(閉塞)なのでバンドや癒着などでの閉塞がある状態を指します.
つまり,イレウスは通常手術の適応にならず,腸閉塞は手術を考慮すべき状態にあるということです.
これは,手術を生業とする外科医にとってはとても重要ですので,イレウスなのか腸閉塞なのかは,分けてプレゼンするようにしたほうが良いでしょう.
そもそも絞扼なのにイレウスという表現はおかしな表現なので,絞扼性腸閉塞という表現になります.
絞扼(ねじれなど)により,腸が閉塞した状態です.
診断は通常,CTでおこなわれ確定診断は,術中所見になると思います.
まとめ
イレウスと腸閉塞は別物
喀血と血痰も別物
下血と血便も別物
抗菌薬と抗生剤は似たようなもの