〇〇病院診療看護師(NP)のお勉強用

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ゾシバンは腎機能を悪くするのか?

《用語について》

ゾシバンとは,ゾシン+バンコマイシンのことです.

このあたりの略し方は,地域柄とかもあるのですが,「ゾシンバンコ」といったり「ゾシンバンコマイシン」と言ったりしています.

我々の施設では,「ゾシバン」という表現が多いです.

そもそも,なんですがゾシンは商品名®です.

本来は,ピペラシリンタゾバクタムという一般名になります.

以前は,タゾシンという商品名のものがありましたが,ゾシンがある現代では販売中止となっています.

タゾシンもゾシンも同じく,ピペラシリンタゾバクタムになります.

これは,ピペラシリンとタゾバクタムの合剤ということになります.

それぞれの頭文字をとって,「ピペタゾ」と呼ぶこともあります.

英語だと,「pip/taz」なので,ピィプティ-ゾと呼ばれることもあるようです.

日本でも,後発薬は一般名が使用さえるので,商品名はタゾピペというタゾとピペが入れ替わった商品名となっています.

臨床的にタゾピペとかピペタゾとか言いにくいので「ゾシン」と呼ばれる事がほとんどです.

たしかに,比率としてはピペラシリンの方が多いので,ピペ→タゾという呼称の方がわかりやすいような気もします.

ご年配の方はバンコマイシンのことを「バンコマ」と呼んでたケースもありました.

抗菌薬にはそれぞれ略語が定められており,ピペタゾの場合はPIPC/TAZになります.

この略語に関しては,日本の化学療法学会が規定しているものなので,国際的に通用するものではありません.

とはいえ,臨床的な抗菌薬の記載は,ほぼ略語を使っています.

 

《タゾシンは何故不要なのか》

先に書いたように,タゾバクタムとピペラシリンの比率の問題です.

タゾシン®の比率は,1:4ですが,ゾシン®は1:8とピペラシリンの比率が大きくなっています.

正直細かいことは理解していないのですが,この量が国際標準となっています.

 

《ゾシン®は腎障害を増やすのか》

腎障害は2004年に定義が決まり,以降改定されてきました.

単純に,血性クレアチニン(SCr)と尿量で評価します.

SCrは,7日で1.5倍上昇すれば急性腎障害になります.

急性腎障害はAKIと略します.

Avute kidney injuryなので,本来は急性腎傷害の方がしっくり来る日本語表現になるはずです.

 

《今回の研究》

https://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/2018/01000/Vancomycin_Plus_Piperacillin_Tazobactam_and_Acute.2.aspx

ゾシバンは急性腎障害を増やすのか,というシステマティックレビューアンドメタアナリシス(SR+MA)になります.

この研究では,16.7%にAKIが発生し,ゾシバンを使うと22.2%に増加していました.

つまり,ゾシバンを使うだけで,AKIの発生は約17%→22%に増加するということになります.

ちなみに,比較製剤の場合は12.9%にAKIが発生していたので,ゾシバンはリスクと言えるでしょう.

バンコマイシン単剤とゾシバンを比較したオッズ比は 3.40でした(odds ratio, 3.40; 95% CI, 2.57–4.50).

単純にバンコマイシン単剤よりも,ゾシバンは3.4倍AKIのリスクが上がるということになります.

バンコ+セフェピムOR カルバペネムだと (odds ratio, 2.68; 95% CI, 1.83–3.91).

ゾシン単剤で (odds ratio, 2.70; 95% CI, 1.97–3.69).

すなわちこれらの結果からは,ゾシンが悪さをしていそうです.

 

《SCrの上昇=腎障害で良いのか》

先に書いたように,Scrの上昇は急性腎障害ということに異論はありません.

ただし,ホントの腎機能障害を示しているのかどうかは考える必要があります.

例えば,ST合剤の場合も有名ですがクレアチニンの再吸収により見かけ上のSCr上昇が起こるとされています.

どうやらゾシン®にもこのような,見かけ上のSCrを上げるような作用がありそうということが言われています.

例えば,シスタチンCでの腎機能評価ではゾシン®だけではリスクにならなかったという観察研究も存在します.

https://link.springer.com/article/10.1007/s00134-022-06811-0

シスタチンCとはざっくりいうと,筋肉量に左右されずに測定できる腎機能とされています.

SCrはボディビルダーのような筋肉が豊富な人は,高く出ます.

多分ですけど,筋トレに励んでいる人はSCrが高いことで検診異常として指摘されているかもしれません.

一方,やせ細った方の場合だと筋肉量が少ないので,そもそも基準値のSCrだったとしても,そのあ値は高い可能性が在るということです.

それぞれ利点と欠点がありますが,SCrをベースに必要に応じて,シスタチンCを追加するという感じが良いのかもしれません.

 

《まとめ》

ピペラシリンタゾバクタム+バンコマイシンの組み合わせは,血性クレアチニン値を上昇させます.

見た目は急性腎障害になりますが,その解釈には多少注意が必要かもしれません.